
「こちらに落ち度はないはずなのに…」 「どうやって断れば、角が立たないんだろう…」
理不尽なクレームや、お客様の勘違いによるご指摘への対応は、担当者にとって非常にストレスがかかるものです。
ご安心ください。この記事を読めば、企業に非がないクレームに対して、冷静かつ丁寧に対応するための具体的な方法が分かります。すぐに使える電話・メールの例文を豊富に紹介するので、もう対応に悩むことはありません。
結論から言うと、大切なのは「お客様の感情に共感しつつ、要求に対しては毅然と断る」ことです。この基本姿勢を具体的な会話や文章に落とし込むための、プロの技術を徹底解説します。
目次
【重要】非がないクレーム対応の黄金法則「C-R-A-A」
まず、どんな状況でも使える万能なフレームワークをご紹介します。この法則さえ押さえれば、相手に不快感を与えず、かつ誤解の余地なく要求を断ることができます。
それがC-R-A-A(クッション言葉 → 拒絶 → 理由 → 代替案)フォーミュラです。
- Cushion (クッション言葉): 「恐れ入りますが」「ご期待に添えず申し訳ございませんが」といった前置きで、心理的な衝撃を和らげます。
- Refusal (拒絶): 「ご要望にはお応えいたしかねます」と、要求に応えられないことを明確かつ簡潔に伝えます。曖昧な表現は禁物です。
- Rationale (理由): なぜ応えられないのか、その理由を客観的な事実(規約、仕様など)に基づいて簡潔に説明します。相手のミスを指摘する言い方は絶対に避けます。
- Alternative (代替案) / Closing (結び): もし可能であれば、別の解決策を提示します。不可能な場合は、「お力になれず申し訳ございません」といった丁寧な言葉で締めくくります。
この構造に従うだけで、単なる拒絶ではなく、組織としての一貫した論理的な回答として伝えることができ、相手の感情的な反発を最小限に抑えられます。
【シーン別】今すぐ使える!非がないクレーム対応の例文集
この章では、先ほどの「C-R-A-A」フォーミュラを使い、具体的なシーン別の例文を電話とメールに分けてご紹介します。
📞 電話対応の基本と例文スクリプト
電話は感情が伝わりやすい分、声のトーンや話し方が重要です。少し低めの落ち着いたトーンで、意図的にゆっくり話すことを意識しましょう。自信と安定感が伝わり、相手の興奮を鎮める効果があります。
【スクリプト例1】保証期間が過ぎた製品の無償修理を求められた場合
顧客: 「先日買った製品が壊れたんだ!無料で修理してくれ!」
担当者: 「さようでございますか。製品の不具合とのこと、ご不便をおかけし、誠に申し訳ございません。詳しい状況をお聞かせいただけますでしょうか。」 (まずは傾聴し、事実確認を行う)
担当者: 「状況、よく理解いたしました。恐れ入りますが、保証書に記載の購入日をご確認いただけますでしょうか。」
顧客: 「えーっと…去年の3月だな。」
担当者: 「ご確認ありがとうございます。 (C)お客様には大変申し上げにくいのですが、 (R)本製品の無償保証期間はご購入から1年間となっており、今回は無償での修理は致しかねます。
(A)こちらは、ご購入時にお渡しした保証書にも記載の通りでございます。 (A)代替案とはなりますが、有償での修理は可能でございます。お見積もりをお出ししましょうか?」
【スクリプト例2】存在しない機能を「使えない」とクレームされた場合
顧客: 「このソフト、〇〇機能がついてるって書いてあったのに使えないじゃないか!」
担当者: 「ご不便をおかけしており、誠に申し訳ございません。〇〇機能がご利用になれないとのこと、詳しくお話を伺ってもよろしいでしょうか。」 (傾聴・事実確認)
担当者: 「お調べいたしました。 (C)お客様のお話を伺い、〇〇の機能にご期待いただいていたこと、よく理解いたしました。誠に申し訳ございませんが、 (R)ご要望の機能は、あいにく当製品には搭載されておりません。 (A)こちらは製品仕様ページにも記載の通りとなっております。 (A)代替の手段とはなりませんが、△△という機能でしたら、一部同様の目的でご利用いただける可能性がございます。ご期待に沿えず、大変恐縮です。」
✉️ メール対応の基本と例文テンプレート
メールは記録が残るため、慎重な言葉選びが可能です。冷たい印象を与えないよう、「共感」と「毅然とした姿勢」を両立させる「温かい壁」を文章で構築することが目標です。
メール作成のポイント:
- 件名: 「【株式会社〇〇】△△についてのお詫びとご説明」のように、一目で内容が分かるようにする。
- 冒頭: まずは不快な思いをさせたことへの共感の謝罪から入る。
- 本文: 客観的な事実と会社の立場を、クッション言葉を多用して丁寧に説明する。
- 結び: 再度、顧客の体験への謝罪と、貴重な意見への感謝で締めくくる。
【テンプレート例1】お客様の勘違いで返品を要求された場合
件名: 【株式会社〇〇】商品「△△」の返品についてのご連絡
本文: 〇〇様
平素は弊社サービスをご利用いただき、誠にありがとうございます。 株式会社〇〇の△△と申します。
この度は、弊社商品「△△」に関しまして、〇〇様にご不快な思いをさせてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます。
ご連絡いただきました返品のご希望についてでございますが、 (C)ご期待に添えず大変恐縮ですが、 (R)弊社サイトの利用規約にございます通り、お客様のご都合による返品・交換は、未開封の場合に限り商品到着後8日以内とさせていただいております。 (A)誠に恐れ入りますが、お届けから1ヶ月が経過しておりますため、今回は返品のご希望に沿いかねますこと、何卒ご容赦ください。
(A)せっかくご連絡いただきましたのに、お力になれず誠に申し訳ございません。 何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。
[署名]【テンプレート例2】規約外のサービス提供を求められた場合
件名: 【株式会社〇〇】弊社サービスに関するお問い合わせへのご回答
本文: 〇〇様
いつもお世話になっております。 株式会社〇〇 カスタマーサポートです。
この度は、弊社サービスに関してお問い合わせいただき、誠にありがとうございます。 しかしながら、ご不便をおかけしておりますこと、お詫び申し上げます。
お問い合わせいただきました「専任担当者の配置」についてですが、 (C)お客様のお気持ちは重々お察しいたしますが、 (R)誠に申し訳ございませんが、特定のお客様にのみ専任の担当者を配置するというご要望にはお応えいたしかねます。 (A)弊社のサポート体制は、すべてのお客様に公平にご提供させていただいておりますため、何卒ご理解いただけますと幸いです。
(A)ご期待に沿えず大変恐縮ではございますが、今後とも弊社サービスにご満足いただけるよう努めてまいります。 この度は貴重なご意見をありがとうございました。
[署名]クレーム対応の前に!大前提となる3つの基本ステップ
例文を実践する前に、クレーム対応の成否を分ける初期対応の3ステップを確認しましょう。これを踏むことで、お客様は冷静さを取り戻し、スムーズな対話が可能になります。
ステップ1:徹底的な傾聴(アクティブリスニング)
まずはお客様の言い分を絶対に遮らず、最後まで聞きます。相手が一番求めているのは「不満や怒りを受け止めてもらうこと」です。「はい」「さようでございますか」といった相槌や、「〇〇でご不便を感じられたのですね」と話を要約することで、「あなたの話をしっかり聞いています」という姿勢が伝わります。
ステップ2:共感の表明(戦略的謝罪)
次に、原因ではなく、お客様が不快な思いをしたという「事実」に対して謝罪します。これは非を認める謝罪ではなく、相手の感情に寄り添う「共感の謝罪」です。
安全な謝罪表現の例:
- 「この度はご不便をおかけし、誠に申し訳ございません。」
- 「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。」
これらの言葉が、感情的な対立から論理的な話し合いへの橋渡しとなります。
ステップ3:事実確認(5W1H)
お客様が落ち着いてきたら、**5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)**を使って、客観的な事実を一つひとつ丁寧に確認し、記録します。これにより、対話の焦点が感情から事実に移り、プロフェッショナルな対応を印象づけられます。
【要注意】カスタマーハラスメントへの対処法
お客様の要求が、理不尽な要求や人格攻撃(カスタマーハラスメント)にエスカレートした場合は、対応を「顧客満足」から**「組織と従業員を守る」**モードに切り替える必要があります。
カスハラの見分け方
- 人格を否定する暴言、侮辱
- 脅迫的な言動(「ネットに晒すぞ」など)
- 長時間にわたる拘束や、執拗に繰り返される電話
- 土下座の要求など、本来の目的から逸脱した要求
具体的な対処法
- 「壊れたレコード」テクニック: 最終的な回答を伝えた後は、議論に応じず**「先ほどお伝えしました通り、そのご要望にはお応えいたしかねます」と同じ言葉を冷静に繰り返します**。これ以上話しても無駄だと相手に理解させます。
- 人格攻撃への対処: 「お客様、ただいま『馬鹿』というお言葉がございました。大変恐縮ですが、そのようなお言葉をお使いになるのであれば、これ以上お話をお伺いすることはできません」と、不適切な言動に対してはっきりと拒絶します。
- 書面対応への移行: 執拗な電話には「これ以上の電話でのご対応は致しかねます。弊社の最終的な回答を、後日書面にて送付いたします」と宣言し、一方的に電話を切ります。
- 最終警告: それでも収まらない場合は、弁護士に相談の上、「本書面を弊社の最終回答とさせていただきます。今後、同様の要求を繰り返される場合は、法的措置を検討いたします」といった内容の最終通告書を送付し、関係を終了させます。
【絶対禁止】うっかり使うと炎上!クレーム対応のNGワード集
良かれと思って使った言葉が、相手の怒りに油を注ぐことがあります。以下の言葉は無意識に使いがちなので、絶対に避けましょう。
NGワード/フレーズ | なぜNGか | プロフェッショナルな代替表現 |
でも、しかし、ですが | 相手の意見を真っ向から否定する響きがあり、言い訳に聞こえる。 | 「承知いたしました。その上でご説明したいのですが…」とワンクッション置く。 |
普通は〜、常識的に〜 | 「あなたは普通じゃない」と暗に非難する、非常に失礼な言葉。 | 「通常、このようなケースは稀でございますが…」 |
ですから、だから | 相手の理解力が低いと言わんばかりの、見下した印象を与える。 | 「改めてご説明させていただきますと…」 |
お客様の勘違いです | 相手を直接的に非難し、侮辱する行為。 | 「弊社の説明が不足しており、誤解を招いてしまったようで申し訳ございません。」 |
担当ではございません | 典型的な責任逃れ。組織への不信感を招く。 | 「私が責任をもって担当部署に申し伝えます。」 |
規則ですので | 官僚的で突き放した印象を与える。 | 「すべてのお客様に公平を期すため、弊社のポリシーでは…」 |
検討します | 期待を持たせるだけ持たせて、結局裏切る最も不誠実な言葉。 | できないことは「致しかねます」とはっきり伝える。 |
まとめ:クレームは企業の品格が試されるとき
非がないクレームへの対応は、**「共感(Empathy)」「明確さ(Clarity)」「毅然さ(Firmness)」**の3つの柱に基づいています。
- まずはお客様の感情に共感し、
- できないことは明確な理由と共に伝え、
- ハラスメントには毅然とした態度で組織を守る。
このスキルは、単なるトラブル回避術ではありません。困難な状況でこそ発揮される企業のプロフェッショナリズムを示す絶好の機会です。本記事の例文とフレームワークを活用し、自信を持ってクレーム対応にあたりましょう。